NTT企業年金の減額認めず
「確定給付」NTT側敗訴
6月8日最高裁
<声 明>
 
 
 最高裁第三小法廷は6月8日付けで、NTTグループの上告を棄却し、平成20年7月9日の東京高裁判決が確定しました。
 NTTグループ会社の企業年金改悪反対全国連絡会と NTT企業年金裁判訴訟参加弁護団は6月10日付けで「声明」を出しました。

<声 明>
 
NTTの企業年金減額が認められず
最高裁が東京高裁判決を確定
 
1. 最高裁判所は、2010年6月8日、NTTグループ会社企業年金の受給者減額に関する 行政訴訟について、NTTグループ会社の上告を棄却し、上告受理申立を受理しない決定を下しました。
 本件行政訴訟は、NTTグループ会社が国を相手方として、NTTグループ会社の企業年 金の受給者減額を認めない旨の国の決定(2006年2月10日)について、その取り消しを求めていたものであり、東京地方裁判所での第1審から受給者517名が行政訴訟参加していたものです。
 裁判所は、地裁判決(東京地裁平成19年10月19日判決)、高裁判決(東京高裁平成 20年7月9日判決)ともNTTグループ会社の訴えを退けていましたが、今回、最高裁判所は高裁判決を正当なものとしてこれを維持する判断を下しました。
 
2. 今回の最高裁判所の判断は、企業が単なる経営上の必要から受給者の年金の切り下げを行 うことを許さず、受給者の権利保障と、そのための国の役割の必要性・重要性を確認する意義を有するものであり、全国連絡会及び弁護団は、かかる判断を歓迎するものです。
 
3. 今回の最高裁判決が支持した高裁判決、及び、高裁判決が判決に引用した地裁判決では、 次の諸点が確認されてきました。

 第1に、給付減額は、「企業の自主性、労使の合意(多数決による意思決定等)のみに委 ねるのでなく、加入者等の受給権を保護するために必要な定めを置くことは、法の趣旨に沿 う」として、受給権の法的保護の必要性と国の役割の意義が確認されました。
 第2に、受給者の給付減額は、「母体企業の経営状況の悪化などにより企業年金を廃止す るという事態が迫っている状況の下で、これを避けるための次善の策として、『給付の額を減額することがやむを得ない』と認められる場合に限られる」と限定的な要件のもとにのみ認められることが確認されました。
 第3に、NTTグループ会社の主張を「企業の経営努力によって計上された利益を配当に 充てることを優先すべきであるという主張」としたうえで、年金受給者の年金額を減額するという受給者の犠牲のもとに株主への利益配当を優先するという姿勢が厳しく批判されました。
 
4. 今回の決定に際して、受給者の立場から、特に次の点を指摘しておきたいと考えます。
 ひとつは、本件は、我が国で1位、2位の経常利益を争う経済力を持ち、9兆5000億 円(2009年度)もの内部留保を貯め込むに至るNTTグループ会社が、企業内部に利益を貯め込むために、企業年金の減額を行おうとした点です。もともと、本件の受給者らの企業年金は、受給者らがNTT側の勧誘・要請に応じて退職金の一部をグループに預けていたものでした。
 もうひとつは、NTTグループ会社が約85%の受給者から取り付けたという減額同意の 実態です。これらの同意の少なからぬ部分は、グループ企業の上下関係を利用した圧力、退職前の人間関係を利用した圧力などによって集められました。
 NTTグループ会社が喧伝する「退職者の自主的判断」の実態は、このようなものだった のであり、そうであるが故に、受給権保護のための国の役割が必要とされるのです。
 
5.  受給者の年金受給権は、すでに確定的に発生している権利であり、受給者の生活を支える 重要な権利です。母体企業やその企業年金制度が破たんに瀕している等、権利の制限が真にやむを得ない場合でない限り、その権利が保障されなければならないことは、法的にも、また、社会的にも当然の事理です。受給者の年金受給権を保障することは、国際的にも確立している考え方であり、今回の決定はこうした国際的な潮流に沿うものでもあります。
 今回の決定について、減額の基準が不明確であるとの一部議論がありますが、高裁判決が 示した減額の基準は極めて明確です。不明確との見方は、減額の基準が緩められるべきとの立場から述べられている批判であり、批判はあたりません。批判はことさらに基準が不明確であるとの議論を行うことにより、厚生労働省が示し最高裁判所が支持した減額基準の緩和をもくろむものです。
 厚生労働省には、受給権保護のための毅然とした対応を求めます。
 
6. 今回のNTTグループ会社の企業年金減額訴訟は、我が国で1位、2位を争う優良企業で あるNTTグループ会社が「年金減額の自由」を手に入れようとして提起されたものであり、 企業が社会的責任を放棄して、企業利益ないし株主利益を図ろうとしたものです。今回の判決を機に、NTTグループ会社がこれまでの経営姿勢を顧み、社会的責任を再確認すること、改めて社員と受給者の生活を守る経営姿勢を取り戻すことを切望します。
 NTTグループ会社は、2004年4月、加入者(現役社員)の企業年金についてキャッ シュバランス制度を導入し、その後予定利率の引き下げを行いました。受給権者の予定利率の引き下げについては、地裁判決・高裁判決においても疑問が呈されていたものであり、その理は当然加入者(現役社員)にも当てはまるはずです。NTTグループ会社はこれら加入者(現役社員)の企業年金についても、2004年4月以前の予定利率に戻すべきです。
 
7. 今回の裁判の勝利は、全国の企業年金受給者の支援、「全国連絡会」に結集する各地の連 絡会のたたかい、通信産業労働組合の大きな支援などで勝ち取ったものです。これまで闘いに参加した方々、支援してくださった方々に、心からのお礼を申し上げます。
  また、今回、私たちは、国とともに、企業の暴走に歯止めをかけるために、NTTグルー プ会社と闘いました。これは、権利闘争の新しいあり方を示したものです。
  経済環境が厳しい中、企業側が社員をはじめ企業を支える関係者を顧みず会社の利益を優 先させる動きが、随所で見られます。私たちは、こうした動きに対して、権利を主張することの意義、連帯し協力することの意義を改めて確認するとともに、他の企業年金を守るために闘っているみなさんとともに、引き続き企業年金を守る闘いをすすめること、ひろく社員や受給者の生活を守る決意を改めて表明するものです。
 
以上
 
2010年6月10日
NTTグループ会社の企業年金改悪反対全国連絡会
NTT企業年金裁判訴訟参加弁護団